第80回全日本学生音楽コンクール北海道大会
2026北海道毎日学生音楽コンクール
審査員講評
ピアノ/フルート/声楽/バイオリン
各部門審査員のなかから代表の先生に
講評をお寄せいただきました
ピアノ部門 審査員
野呂 佳生 先生

皆さんの演奏を聴かせていただき、どの部門も全体のレベルが上がっていると強く感じました。素晴らしい演奏ばかりで、皆さんがピアノの練習に多くの時間と努力を注ぎ、先生から熱心な指導を受け、ご家族の支えがあって初めて成し得たことだと思います。演奏者の皆さん、先生、ご家族の皆様に敬意を表します。
ここで、注意点や学んでほしい内容をお示しします。自分に当てはまる点があれば参考にして取り入れていただければ幸いです。
【小学校の部】
課題曲は古典派の作品から出されましたが、小学生のうちから全楽章や性格の異なる楽章を続けて演奏できたことは非常に貴重な経験です。私の学生時代の恩師は、「日本ではソナタの遅い楽章をあまり勉強していない。速い楽章は上手に弾けるのに遅い楽章は弾けない」と、日本のピアノ教育に疑問を持っていました。大学生にもその傾向はまだ残っており、今回の課題は意味のあるものだと感じます。
審査員の先生方からは「個性がありこれから大いに期待できる」「ステージマナーが良かった」などの意見をいただきました。
1. 古典派の音楽を色々と聴いてほしい
ピアノはもちろん、オペラやオーケストラの演奏を聴くことで音のイメージが広がります。例えば左手の伴奏の刻みは弦楽器の響きをイメージするなど、表現の幅が豊かになるでしょう。自分が弾く曲と同じ時代の音楽を楽しんで聴いてほしいと思います。
2. 指のトレーニングをする
音の粒を揃え、打鍵のスピードをコントロールすることで、多様な音色を出せるようになります。
【中学校の部】
3位が3名出るなど、実力が拮抗していました。時代の異なる作曲家の作品が課題となりましたが、皆さん音色を考えて表現できていたと思います。より良い響きを目指して、以下の点を勉強してほしいです。
1. ホールの残響を聴いて響きを作る
低音を鳴らして上の音をのせることで、より広がりのある響きが生まれます。
2. 曲のクライマックスを上手に作る
音色はきれいでも、音量や音色によるメリハリが不足し平坦に感じられる演奏がありました。
3. 内声をもっと聴く
ソプラノはよく聴こえますが、内声が弱いため和音の響きが薄く感じられました。
4. 歌の線を自然に
「最初を遅くして次に速くする」などと考えていることが分かる不自然なラインに聞こえることがありました。旋律を声に出して歌うことを勉強してほしいです。
【高校の部】
技術・音楽性ともに充実した大人の演奏でした。皆さん高いレベルでほとんど差がなく、立派な演奏だったと思います。
1. 強い音をよく聴く
盛り上がりで大きな音が必要な場合、音をしっかり聴いているように感じられないことがありました。強い箇所も弱い音で練習することをおすすめします。
2. 感動を伝えてほしい
皆さん名曲を選んでいるので、作品の素晴らしさを学び、その感動を本番で伝えてください。
【全体共通の注意点】
1. 装飾音は歌うように
音符の頭にアクセントがついて大きくなる、または短く引っ掛ける演奏が見られました。
2. フレーズの最後の音を丁寧に
歌い始めは丁寧なのに、最後の音にアクセントがついたり短くなったりすることがありました。
3. 強弱や歌い方は音楽に合った表現で
音楽に合った表現を心掛け、やり過ぎにならないように注意してください。
今後の皆さんの成長した演奏を楽しみにしております。
フルート部門 審査員
阿部 博光 先生

毎年、中島公園の木々が色づき始める頃、学生音楽コンクールの本選会が開催されます。今年も、誰もが憧れる札幌コンサートホールKitaraの小ホールを舞台に、本選会が開催されました。
今年のコンクールは、全体的に参加者が増加し、演奏のレベルも向上していることが感じられました。また、参加者一人ひとりが演奏する作品に真摯に向き合っている姿勢が強く印象に残りました。これもひとえに、日頃からご指導されている先生方のご尽力と、ご家族の温かいご支援があってのことと感じております。
【小学生部門】
小学生部門では、例年に比べ、予選・本選ともに演奏された曲の難易度が高くなっていましたが、それぞれが個性的で意欲的な演奏を披露していました。
小学生は、学年にかかわらず身長や体格に大きな差があります。ですから、無理に大きな音を出すことにこだわるのではなく、小さくても美しい音を追求してほしいと思います。今回も、美しい音色で、自分に合った作品に真摯に向き合う素敵な演奏に出会うことができました。
また、全日本学生音楽コンクールには、残念ながら小学生を対象としたフルート部門がありません。その中で、北海道では「北海道毎日学生音楽コンクール」において、小学生が参加できるフルート部門が設けられています。これは大変貴重な機会です。これからも、子どもたちが夢に向かって挑戦できる場として、末永く継続されることを強く願っております。
【中学生部門】
中学生部門の予選には7名の応募があり、そのうち5名が本選に進みました。
予選の課題曲は、フルートを学ぶ方にぜひ取り組んでほしい、ガリボルディの『20の旋律的エチュード Op.88』でした。ガリボルディのエチュードは、難しいテクニックを習得するというよりも、美しい音楽表現を学ぶことを目的として書かれた作品です。ぜひ、コンクールの課題となった2曲だけでなく、残りの18曲にも取り組んでみてください。そうすることで、フルートの表現力や技術をさらに深めることができるはずです。
本選の課題曲は、ドイツ古典派の音楽の中心地の一つであったマンハイムで活躍したシュターミッツの代表作、『フルート協奏曲 ト長調』の第1楽章でした。この作品は、フルートを学ぶ方にとって重要なレパートリーの一つであり、古典派の様式を学ぶうえでも最適な作品です。
シュターミッツはモーツァルトより10歳年上ですが、両者が活躍した時代の音楽に触れることは、古典派の作品への理解を深めるうえで大きな意味があります。今回の経験を生かし、ぜひモーツァルトのフルート協奏曲にも関心を持ち、挑戦してほしいと思います。
本選では5名が演奏しましたが、技術的にも音楽的にもレベルが高く、聴き応えのある演奏が続きました。一方で、中学生という成長段階にあることもあり、楽章の後半でスタミナが切れてしまったり、集中力を維持することが難しかったりする場面も見受けられました。しかし、今後の成長が楽しみな方ばかりでした。また皆さんの演奏を聴かせていただける機会を楽しみにしております。
【高校生部門】
高校生部門は、例年よりも参加者が多く、演奏のレベルも高い、聴き応えのあるコンクールとなりました。
予選の課題曲は、T.ベームの有名なエチュード『24のカプリス Op.26』から、特に美しい音色と表現力が求められる第16番と、ロマン派のエチュードを代表するフュルステナウの『24のエチュード Op.125』から第11番の2曲でした。
いずれも内容の濃い作品です。ベームの作品は和声が比較的単純である一方、楽曲を分析したうえで、音楽的な音色の変化を表現することが求められます。一方、フュルステナウの作品はテクニックが難しく、音を正確に並べるだけでも容易ではありません。しかし、こちらも和声にしっかりと裏付けられた作品であり、音符を追うだけではなく、音楽の構造を理解して演奏することが大切です。
音数が多く、跳躍も多い難しい課題曲でしたが、今回の予選ではレベルの高い演奏が続き、北海道の高校生の実力が着実に向上していることを感じました。その結果、11名が本選に選出されました。
本選では、ロマン派のフルート協奏曲の名曲である、ライネッケの『フルート協奏曲 ニ長調』の第1楽章が演奏されました。この作品は、ライネッケが亡くなる2年前、83歳のときに作曲したもので、長い人生を歩んできた作曲家の思いが語られるような、とても魅力的な作品です。その深い音楽性を、まだ10代の高校生がどのように捉え、表現するのかという思いを抱きながら、演奏を聴かせていただきました。
皆さん、とても上手に演奏されていましたが、なかでも数名の方の演奏は、技術的に優れているだけでなく、作品の本質に迫ろうとする姿勢が印象的でした。3種類のモティーフや、技術的に難しい間奏部分、そして冒頭と最後に登場するレチタティーヴォが何を語っているのか。それらをしっかりと理解し、聴き手に伝えようとする音楽表現に、大きな可能性を感じました。
今回聴かせていただいた多くの才能が、これからさらに成長し、それぞれの音楽を深めていかれることを心より願っております。
声楽部門 審査員
大久保 光哉 先生

声楽部門は、予選での演奏を踏まえ、より素晴らしい演奏をしてくださいました。
【中学生の部】6人
それぞれ真摯に音楽に向かい合った演奏をしていたことが印象的でした。
ただ、ホールでの、しかもお客様を含め審査員の前で歌うということで緊張してしまった方が多く悔やまれます。そのためでしょうか、姿勢の悪さが目についてしまいました。胸を広げることで声も表現も異なってきます。舞台に出てくるところから、既に演奏は始まっています。是非、人前で歌うイメージトレーニングをしていただきたいと思います。
また、声楽は基本的に詩に曲が付けられている音楽です。詩を口に出して読んでみるなど、もっともっと言葉に興味を持っていただきたいと思います。ひとつの単語としてのくくりも意識しましょう。そして、自然な息の流れの中、表現を模索していってください。
【高校生の部】10人
それぞれに魅力的な演奏を聞かせていただきました。
さらに、魅力を表出するため、是非とも、自分の声に向かい合っていただきたいと思います。
成長途中ですので、自分の声を見つめ、決して無理をせず、息に乗った声というのはどういうことなのか、今一度、考えてください。
発声について、みなさん日々努力をなさっているかと思いますが、音楽表現としての発語法(母音・子音の発音など)を明確にすることも、自分の発声に繋がるとても大切なものです。
みなさんは、“表現”の道具として声楽というものを考えて欲しいと思います。どのように曲を伝えたいか、それが根本にあることを忘れずに研鑽されることを願っております。
【大学生の部】7人
みなさん、恵まれた声と資質に恵まれており、将来が楽しみです。
ただ、音程の悪さが気になった演奏もありました。
今一度、発声の基本を勉強し直すことも必要かと思います。
それは単に、声だけにフォーカスすることではありません。テキスト表現としての母音、子音といった発語法、そして、曲やフレーズに合った呼吸というものも重要な要素となります。
また、作詩や作曲された時代、そして詩人や作曲家の人生など曲の背景を把握することや、曲のスタイルの理解も欠かせません。作品に込められた思いを共有し演奏に生かしていただきたいと思います。
さらに、自分の声やキャラクターに合った課題曲と自由曲の組み合わせをどう考えるかも必要です。
これからも、様々なことに興味を持ちながら、自分の表現手段である声楽に立ち向かい、歌うことの歓びを感じていってください。
