2 時間前
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第76回全日本学生音楽コンクール
2022北海道毎日学生音楽コンクール
審査員講評
ピアノ/フルート/声楽/バイオリン
各部門審査員のなかから代表の
先生にメッセージをお寄せいただきました
ピアノ
ピアノ部門 審査員
練木繁夫(ねりき・しげお)先生
秋の色が深く感じられる朝、イチョウや楓の紅葉(黄葉)に心を癒やされながら、期待に胸を膨らして会場へと進みました。
私は道外の人間なので、新鮮な気持ちで子どもたちの努力の成果を聴くことが出来たと思います。
小学生の部では、課題曲を個性豊かで伸び伸びと演奏していたのが印象的でした。
中学生の部では、課題が難しかったことにも原因があるのかもしれませんが、実力を出し切れていない彷徨いの時期かと感じました。
高校生の部では、個人の秘めている音楽を見事に臆することなく表現する演奏が感じられ、子供たちの成長が嬉しかったです。
北海道地区予選のレヴェルの高さにはいつも感心させられることが多く、今回の小学生、高校生のレヴェルは私が期待した以上に優れていたと思います。
以前に「演奏と関係ない過度の演技は必要ない」と書かせて頂きましたが、それが今回には見えなかったのは僕にとって嬉しかったです。これには先生方、及びご両親のご努力があったと思いますので、この場を借りて感謝の意をお伝えしたいと思います。ありがとうございます。
私事ではありますが、この本選が行われた2週間ほど前、海外のコンクール審査から帰国しました。世界の個性ある演奏を聴いてさらなる教育への原動力となりましたが、今回の北海道大会に参加した全てのピアニストから、いずれは海外のコンクールで素晴らしい結果を成し遂げる才能が生まれることを心から期待します。
フルート
フルート部門 審査員
阿部博光(あべ・ひろみつ)先生
小学校の部 (2名)
少々緊張気味でしたが、それぞれが選曲した自由曲を楽しそうに演奏されている姿に好感が持てました。
フルートを手にして間がないにも関わらず、身体全体を使って楽器をよく鳴らした堂々としたステージで、お二人のこれからの成長を期待しています。
中学校の部(6名)
予選で、ケーラーとガリボルディのエチュード2曲を好演し高い評価を得た6名の中学生が出演しました。
本選は、シュターミッツ(1745~1801)のフルート協奏曲ト長調より第1楽章でしたが、この協奏曲はフルートを学ぶ人が必ずや向き合うべき重要な曲で、フルートのテクニックは勿論ですが古典音楽の様式感や音楽表現など音楽の基礎を学ぶことができる名曲です。中学生にとっては少し荷の重い曲でしたが、果敢に挑戦している姿に感動いたしました。それぞれ成長過程の中学生ですので、細かいテクニックでの問題点やフレーズの表現方法など、もう一歩踏み込んで欲しいと感じる部分もありましたが、一人一人多くの収穫があったことと思います。
また、偶然にも全員ランパル版のカデンツァを見事に演奏されましたが、個性的な演奏が多く時の流れを感じました。
高校の部(4名)
予選で、叙情的なアンデルセンのエチュードとラテン的なリズムと難しい音列で個性的なカステレードのエチュードを見事に演奏した4人の高校生が、本選ではモーツァルト(1756~1791)のフルート協奏曲第2番二長調を、堂々と演奏されました。この曲もシュターミッツ同様、フルーティストにとって最も重要なレパートリーで生涯、研究し取り組んでいくべき作品です。
モーツァルトの研究が進むにつれ、数多くの出版社から原典版や伝統的な版が出版されていますが、アーテイキュレーションや装飾音の解釈の仕方、トリルの付け方や終結音の処理の仕方など課題の多い曲です。演奏法の解釈は時代によって変わるものですので、伝統の重要性と自由な発想によるフレキシビリティを大切にし、今回の経験を忘れる事なく、これからも素敵なモーツアルトの世界を追求して行ってくれることを期待しています。
声楽
声楽部門 審査員
杉江 光(すぎえ・こう)先生
中学校の部
皆さんとても素直な発声で美しい声が出ていました。
声楽は、人の顔や体型がそれぞれ違うように、声の質や発声器官もそれぞれ個性があります。「みんな違って、みんないい」の世界です。
"みんないい" になるためには、自分の声を自由にコントロールし、美しい音色の楽器にするために、発声などの基礎基本が大切で長い時間と経験が必要になります。また、自身の良さを活かす自分の声に合った選曲も大事な要素です。
これからも "歌うことが好き!" の気持ちを大切に、たくさんの名曲に巡り合って、高校、大学、社会人と楽しく歌を続けてもらえたらと思います。
高校の部
それぞれ個性を活かした演奏で感心しながら聴かせていただきました。
コンクールですので、とても緊張して普段のように歌えなかったこともあるかと思います。舞台で緊張してもしっかり声を支えて声が浮かないように歌うには、確固たる発声技術の裏付けが必要になります。また、音高が不安定になることも、今回、少し気になりました。
音楽ですので、もちろん表現力も大切なのですが、まずは無理なく美しく豊かに響く発声、フレーズの流し方や処理の方法、発音の正しさなど、声楽に必要な基礎基本を大切にして下さい。
基礎基本は、一生をかけて繰り返し繰り返し行う中で得られるものと思います。みなさん個性的で美しい持ち声の将来が楽しみな人ばかりでしたので、これからも練習を重ねて、コンクールなどの発表の場を通して、自分を磨いていって下さい。
大学の部
皆さんそれぞれ良く勉強されていて、自分の声質やキャラクター、演奏技術を活かせる曲を選曲していたかと思います。
声楽は他の楽器と違って、外国の楽曲を演奏する際、歌詞を正確に発音し言葉を明確に伝える技術が必要になります。語学の勉強も大切ですが「話すように歌い、歌うように話せる」ようになるために、詞のフレーズの流れを感じながら朗読する事をお勧めします。歌曲の場合は、詩の韻の踏み方や一行の音節の数も感じながら朗読してみてください。
また、今回、作曲者の意図する表現や楽曲分析に基づいた表現に甘さを感じる演奏もありましたので、「~だからこう演奏する」という「~だから」の部分の裏付けをしっかり持って演奏されると良いと思いました。
最後に、フレーズの処理や表現のセンスを高めるために、一流の声楽家たちの演奏を、好き嫌いではなく一流であることの理由、共通点を理解できるように「何度も何度も聴き理解する」ことをお勧めしたいと思います。
今回のコンクールでの経験を生かし、これからも素敵な歌を歌い続けてください。
バイオリン
バイオリン部門 審査員
杉浦美知(すぎうら・みち)先生
講評が時期外れになってしまい、お詫びを申し上げます。
90歳の母の介護で自宅で腹膜透析や管出口部消毒を私が行っており、練習や仕事と両立するのが大変な毎日です。常に一日の時間が足りない感じで仕事がなかなか思うように捗りませんが、段々と腕も看護師レベルになり、少しずつ楽になってきました。
個々の演奏コメントに関しては、ご興味がございましたら毎日新聞社を通してご連絡を下さい。ノートは大切に保管しております。
以下は一般の印象です。
Very nice bowing ! 右腕が開いて弓をたくさん使い、とても良い印象でした。音が荒くなってしまうと思い、あまり使わせない先生がよくいらっしゃいますが、北海道にはその傾向がなく、指導者の皆様に Bravi ! やはり体はオープンにしますと自然にリラックスして音楽もオープンになります。
主に中学と高校の部で気になりましたのが音程でした。学校の勉強や部活があり、練習時間を確保するのが大変で課題曲をメインに練習している印象でした。逆にスケールやダブル(特に3度、4度と6度、オクターブは手の形を整える)の音階に重きを置けば指板上 音の位置関係が身につき、音程の問題は解決します。音程が安定すれば曲の練習のときにもっと音楽に集中でき、学生も楽しいと思います。あまりスケールばかりしますと、音楽に興味をなくしてしまいますのでバランスを取るのが難しいです。
遅いテンポから徐々に速くして練習している印象でした。まずは速く弾き、最終的にどの筋肉を使い、どのような時に弾きにくいかを本人が意識しませんと遅いテンポでの練習が無駄になってしまいます。また、常に遅いテンポで練習していますと脳の反応も遅くなってしまいます。
"安全" な演奏...... 演奏会やコンクールで絶対に失敗してはいけないという思いからリスクゼロの安全なテンポ、また、一音一音教えてしまいますと きれいには纏まりますが、音楽が面白くなくなってしまいます。音を通して自由に表現させてあげますとスケール大きい演奏になります。
色々と書きましたが、北海道の学生の演奏を聞かせていただき、私にとっては楽しい二日間でした。これからも頑張ってください!!
音楽とは何か..... 作曲家はどのような思いで作曲したのか..... その時にその国でどのようなことが 起きていたのか..... 単純に音の響きを楽しみながら弾いて良いのか..... ステージに立ったら聴衆を自分の世界に引き込む? それとも聴衆のために演奏する? どこまで自分を出して良いのか..... 作曲家はどちらを望んでいた? ある音だけをイメージしていたのか、それともいろいろな人に演奏され、自分の作品が毎回違って聞こえて欲しかったのか..... 考えることは多い! まずは基礎をつけなければ話にならない、それから音楽を追究すればよい。このように考える先生が意外と多いようです。
基礎はもちろん大切、でも子供の想像性を早いうちに目覚めさせるほうがもっと大事だと思います。
アメリカで生まれ育った私は、幼稚園の頃から自分の考えを言うことに重きをおかれました。とんでもない間違った意見でも とにかく表すことが大事。音楽も同じだと思います。現在 名前を出している若者の中でも先に音を正確に並べることに時間をかけ、ワードのコピー/ペーストのように音楽的なことを最後に貼り付ける。順序が逆! このように弾きたいと先にイメージし、それを表現できるようにテクニックを磨いて練習するべき、そうでないと無駄な練習が生じる。
長年 東京大会で審査員を務めさせていただいておりますが、未だに覚えている出来事があります。
アメリカ人の学生でしたが、はっきり言ってあまり上手ではありませんでした。コンクールで あのように弾きましたら日本人の大半は家族中で暗くなり、俯いて帰るでしょう。でも彼女は弾き終えて客席に現れ、明るい笑顔。分かっていないのだろうか、と思ってしまいましたが、そうではありませんでした。見ていましたらご両親はご両親で笑顔で迎え、 "Nice try, honey ! " と肩に優しく手を掛け、笑いながら三人は楽しそうにホールを去りました。
今日は失敗してしまったけれどもまた頑張って出直しましょうね、という健康的な態度だと思いました。その学生はそれ以来コンクールに再度挑戦しているかどうかは分かりませんが、恐らくまだ楽しんでヴァイオリンを弾き続けているでしょう。
コンクールは勿論 一生懸命 練習して受けるものですが、ただ優勝するために受けるべきではありません。自分の中で現実的な (自分のレベルに合った) ゴールを立て、コンクールはそのゴールに達したかどうかの物差しだと思うのが良いと思います。人を突き倒してまでも勝つ、それではあまり高級な音楽は生まれてきません。
また、入賞に関してですが、それはあくまでもその日の結果、他の日にはまた別の結果になるかもしれない、と受け止めるのが良いでしょう。入賞しないときによく見るのは、まるで世の終わりという親子の表情。がっかりするのは当たり前ですが、子供が自信をなくさずにすぐに開き直れますように明るく、温かくサポートするのが保護者と先生の役目です。
どのようにすれば音楽は生きてくるのか。年月が経てばワインのように音楽も自然に深みが段々と出てくる、と言いたいところですが、そうとは限らない。一生懸命弾く、音を正確に並べる、これだけでは音楽になリません。難しい、奥が深い..... それではどのように勉強すれば良いのか。やはり美術館で絵画を観たり、自分の楽器以外の演奏会を聴いたり、読書をしたり、いろいろな人と話したり、イメージ豊富になりますように脳を刺激しますのが一番大事だと思います。夢ある個性的な子供を育てましょう! 必ずその子の音楽に反映します。
最近のコンクールを聴きますと何時間も繰り返し、繰り返し練習している学生が多い印象があり ます。きちっと弾くようになりますので良いと思いがちですが、そのような練習は程々にしませんと頭を使わずに指だけが動き、音楽とは別のものになってしまいます。また、万が一 演奏で間違えてしまいましたときに対応できなくなります。頭はフリーズ状態、音ではなく指で覚えてしまっているため、その場で違うフィンガーリングで弾けなくなります。
最後に..... 皆がプロになる目的で勉強する必要はない!
音楽が好きになり、弾くのが楽しければ大学生や大人になりましたときに息抜きのために弾いたり、友人とアンサンブルをしたり、音楽会を聴きに行ったり、楽しめます。
プロだけでなく、アマチュアにとっても音楽は一生ものの宝です。
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