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第77回全日本学生音楽コンクール
2023北海道毎日学生音楽コンクール

審査員講評

ピアノ/フルート/声楽/バイオリン

各部門審査員のなかから代表の先生に

講評をお寄せいただきました

ピアノ
ピアノ部門 審査員
中井恒仁(なかい・のぶひと先生

 北海道大会の審査を初めてさせて頂きました。予選から皆さん和声の変化や音程に心と耳が反応していて、音楽を自分の感性でとらえて素直に表現されていて、大変嬉しく聴いていました。コンクール当日、会場のある公園の木々の色や空気がヨーロッパのそれと似ている感覚を持ちました。もしかしたら北海道は音楽を肌で感じる環境に恵まれているのかもしれません。

 小学生は、古典のソナタ全楽章や大きな変奏曲と小品集でした。小学生にとっては大曲になりますが皆さん立派に弾いていました。この位規模の大きな作品になると、様々な音楽的要素が含まれていますので、しっくりと感性にはまっている所とそうでないところが見られたかもしれません。今のうちから、オーケストラやオペラ等の様々な音楽を聴いたり、作曲家の伝記を読んだりして、音楽の栄養をたくさん取り入れてほしいと思います。

 中学生は、古典から近現代までの幅広い時代からの課題でしたが、それぞれの作品の良さをしっかりとつかんで自分の言葉で音楽を語っている方が多かったです。感性や集中力が研ぎ澄まされた素晴らしい演奏に沢山出会えて感動しておりました。是非、将来音楽の道に進んでほしいと思います。

 高校生は、自由曲で聴き応えがありました。ロマン派以降の作品が並びましたが、表現したいことがたくさんあっても、テンポの統一感や作品の背景のようなものもしっかりと軸に持ちつつ演奏できると、訴えかけるものがより大きくなるのではと感じました。

 コンクールは勉強の励みになると思いますし、良い結果が伴えば自信にもつながり更なる飛躍のきっかけにもなりますね。でも、結果が思うようにいかなくても、それは今回のこと。今は皆さん伸び盛りですので、練習の仕方によって大きく成長できます。音楽の勉強は一生続きますので、音楽の素晴らしさや楽しさを心に持ちながら継続してほしいと思います。

 


 

フルート
フルート部門 審査員
立花雅和(たちばな・まさかず先生
立花雅和003L (Medium).jpg

【全体評】


 今回出場された方々はコンクールに向けて練習に多くの時間を費やし、当然本番も楽なものではなかったと思います。
 どの方々も、このステージで良い演奏をするんだという気概がひしひしと伝わってきました。
僕も審査員として、全ての演奏を敬意を持って聞かせていただきました。

 

 今回素晴らしい成果を残せた方々、おめでとうございます!
この自信を糧に、しかしおごる事なく、今後もひたむきに技術と音楽性を磨いていきましょう。

 もし今回の結果が自分の望まないものだった方々、これはあくまで現時点での評価です。この学びをしっかり心に抱いて、次への挑戦を諦めないでください。

 コロナ禍をで長く停滞していた音楽界ですが、それにもめげずフルートを続け、そして今回のコンクールに挑んでくれた受験生の皆様には感謝に絶えません。
 次世代のフルーティスト、音楽家たちの成長を僕は全力で応援します。


【小学校の部】2名 


 今回演奏された演目は林光の七つの子変奏曲、ノブロのメロディといった小学生にとって一筋縄ではいかない作品でしたが、堂々とそれぞれの演目を演奏し切ったお二人に、まずは拍手を送りたいと思います。


 この年頃のお子様を指導する先生におかれましては、フルートを始めた年齢や体格、指導内容を理解できるように伝える言葉選びやモチベーションの維持など、様々な難しさがあると思います。


 それを重々承知した上で、生徒さんの楽器の構え方、姿勢を改めて確認お願いいたします。体格も変化の大きい時期かと存じますので、成長に合わせて身体に負担のない構え方、姿勢を作ることができるよう、常に気を配っていただければ幸いです。

 1位を取られた方は、フルートの基本的な奏法や音の響きを踏まえつつ、フレーズや曲想の変化によく意識を向けて演奏されている感じが伝わってきました。さらに音楽的な曲想のバリエーションの魅力に気づくこと、例えば長調やメジャーコードのメロディの響きだけで無く、短調やマイナーコード、作曲家が工夫を凝らした伴奏の和声進行の美しさが表現できるようになると、一層良い演奏ができるかと思います。


 

【中学校の部】5名 


 本選はボッケリーニ、モーツァルト(選択はありませんでしたがハイドンも課題曲候補でした)といった古典の作曲家の協奏曲という古典作品で、「フルートが吹ける」だけでなく音楽を美しく奏でるための基本的な知識や様式を身についているかを試されるという、中学生には中々ハードルの高い課題です。


 技巧的な音階やアルペジオのフレーズの中でも、基本的な調性感やハーモニーとの調和が取れているか、曲の構成や和声進行から読み解いた(論理的に矛盾の無い)フレーズの歌い方ができているかなど、最低限クリアしなければならない「音楽の基礎」が表現できているかで、まず評価されます。


 今回の5名の演奏は、各々細かいトーンミスや音色の差などはあれど、この「音楽の基礎」の習熟度の差が現れた順位となりました。「音楽の基礎」は言い換えると長い歴史をかけて人々が作り上げた「普遍的な美しさ」であり、特に古典の作品を演奏する際は、それらの知識を学び、表現する技術を磨く練習が必要です。


 その過程においては(特に本格的に音楽を学び始めた中学生にとっては)、それまで自分が気持ちいいと思っていたやり方に沿わない奏法や、解釈が出てくることもあるかもしれません。


 しかし、そういった普遍的な美を一旦受け入れ、さらに「あ、確かにこちらの方が綺麗かも」と共感を見出すことができたかどうかというのも、「音楽の基礎」の習熟度の差となります。

 先述の通り中学生という時期は、自発的に美しく演奏できる事よりも、教えられる事の方がまだまだ多く、先生に指導された内容を吹きこなすだけでも大変かと思います。


 しかし、教えられた通りに演奏できたら確かに良い!と感じたならその時の感動を忘れずにいてください。なぜそう演奏するのか分からない時は先生に質問したり、自分なりに納得する理屈を考えてみてください。


 そうすることで指導は本当の意味で自分の技術、知識となり、少しずつ「音楽の基礎(=普遍的な美)」に自ら共感できる感性が磨かれて、古典の音楽の魅力を正しく引き出す事ができます。


【高校の部】5名 


 今回の課題曲はダンツィのフルート協奏曲でしたが、d-mollという調性感、マイナーコードの響きをみなさんよく汲み取って演奏されていました。


 また演奏スタイルや表現したい内容に、5名それぞれ個性があり、同じ作品でありながら様々な曲の魅力を感じさせていただきました。

 その中で今回の本選で全国大会に選出された方は、音色や音程、テクニックの確実性やアーティキュレーションの明快さなど総合的にレベルが高く、また一つ一つのフレーズ細部まで意識が良く行き届いた、集中力のある演奏が印象的でした。予選での演奏から目覚ましい成長も見られ、本選に向け短い期間で大変努力されたのだと思います。

 高校生レベルでは、先に述べた「音楽の基礎」が身についていることは前提で、曲の解釈の深さ(アナリーゼ)も評価として割合が大きくなります。


 作曲家に対する知識や時代背景、曲の構成や和声進行の特徴から作曲家が意図している曲の魅力をどれだけ汲めているかなど、曲に取り組む際には今一度掘り下げてください。


 曲を十分に理解した上で、それを演奏で細部まで表現し切る「徹底さ」を練習で鍛え上げて、さらにレベルアップを目指してください。

声楽
声楽部門 審査員
萩原のり子(はぎわら・のりこ)先生
萩原のり子 (Medium).jpg

中学、高校、大学、全てで、まず審査員それぞれの先生が抱かれたご感想も取り纏め書かせていただきます。

【中学生】

  • 皆さんしっかり歌われて素晴らしかった。

  • ステージに慣れて立派に歌っていた。

  • のびのび美しい声で歌う喜びを表現してほしい。

  • 背伸びせず年齢相応の曲を。

  • 難しい曲にチャレンジして「うまい」を聴かせようとしすぎずに。

  • 声楽発声指導を受けましょう。

  • 少しずつ体を作り良い響きを目指して。

  • 声楽の先生についているのか知りたい。イタリア語を歌う場合は発音も大切に。

  • まず基礎を知り学ぶこの時期に発声面や響きを聴き分ける力を勉強してしっかりとした土台作りを。

  • 声楽にとどまらず一流の演奏を沢山聴くこと。さらに伸び伸びと素直に。

 


――“クラッシック音楽における声楽”を前提とするなら、楽器である体の使い方と言葉が選曲に相応しい状態にあるか? の配慮が必要ではないか、というのが全審査員の共通の見解です。


 また「歌を歌いたい」という気持ちで臨んでいながら、緊張からか幾分表情が暗く、体も各筋肉も硬くなっているように見受けられました。美しい声を空気を通して遠くまで届かせるには、安定感のある姿勢や、言葉を発している生き生きとした顔の表情はとても大切です。


 ともあれ中学生ながらに晴れの舞台で自分の「歌」を披露しているさまは、大変微笑ましくエールを送りつつ聴かせていただきました。限られた一瞬にどう輝くか? これから益々経験を積んで勇気を持ってチャレンジしていってほしいです。

 

【高校生】

  • 内容を感じながら歌っていた。

  • 声と表現のバランスを取りながら持ち物を大切に成長させてほしい。

  • 舞台で一人で歌うという体験を大切に集中力を持って。

  • 本選では皆、素晴らしい素質がありよく勉強してあったため優劣をつけるのに苦労した。

  • 自分の声にあった曲を選び基礎を重視し、作品の時代や様式も踏まえて勉強を。

  • 皆さんよく歌っており大いに期待する。

  • ブレスから歌いだしの準備を。一つ一つ丁寧に積み上げよう。

  • “声が出る”ということに留まることなく、内容もよく勉強を。

  • 歌詞をよく読み(日本語もイタリア語も)力みなく発音を明確に。

  • 基本的なレガートや息の支えを大切に。

  • 高校生らしい世界観の表出を。

 

――この度はほぼ甲乙付け難い出来栄えで、決め手となるポイントをどこに絞るべきかで審査員全員が悩んだ結果となっています。

 

 全体的には、課題曲の完成度が良く、安定していました。一方自由曲はスタイルもスケールも歌曲とは異なる大きさのため、“とっておきの一曲”としてはもっと完成レヴェルが上がって欲しいとも感じました。

 

 音高の正確さ、舞台で通用する発音、基本的な発声テクニック(特に息に乗った言葉)、などを手段に、作品に込められたメッセージをよく読み取り、情熱をもって表現することに邁進されたい。

【大学生】

  • 今年度は人数が多くレヴェルも高かった。皆、恵まれた声と才能を有し将来が楽しみ。言語も勉強し基礎に立ち返りながら研究して行ってほしい。

  • 皆、大曲を歌っていた。各自、特徴が生かされている選曲であった。発声面での良し悪しを意識して課題に向かって頑張ってほしい。テキストを自らの声でどう表現するか、更に研鑽を。

  • 楽曲をしっかり理解しており表現と発音に努力が見える。楽器としての体作りや響きが薄くならないように。フレーズと言葉を繋いで、響きがともに表現になるように。

  • 初心にかえって発声の基本を勉強しなおすことも大切に。

  • 女性はドレスで歩く練習を。オペラは役柄全編を捉えるように。詩の世界、オペラの人物像など、より深い理解と表現が望まれる。

 

 

――それぞれが持ち味を生かした選曲で、パフォーマンスも伸び伸びと繰り広げられており、聴き応えのある演奏でした。また、本選の半数が男性、というのもこれまでになく頼もしく印象的でした。

 

 歌曲で披露された持ち声の良さを、大曲でどう繰り広げて下さるのか・・・に期待がかかりました。コンクールでは特にここぞと “キマル” ポイントがどのように心に届くかが注目されますが、そこはもとより全体の纏め上げ方にももうひと工夫出来そうにも感じました。

 

 作品のアナリーゼをもとに、音域による響きの統一を心掛け、基本となるlegatoのテクニックや紡がれている言葉が揺るぎなく自分のものとなることを目指していきたいものです。

 これからもその曲の魅力を引き出す技術を磨き、持ち前の美声を大切に、表現力が豊かに広がります様に願っています。

 


 

バイオリン
バイオリン部門 審査員
植村理葉(うえむら・りよ先生

【全体講評】
 

 今回たくさんの演奏を聴かせていただき、本番での演奏ができるまでの道のりを歩んできた参加者はもちろん、先生方の渾身のご指導、ご家族の方のサポートにたくさんのエネルギーを使ったであろうことを思い、また、このような機会を提供し運営している毎日新聞社北海道事業グループの方々に敬意を表します。

 2020年のコロナ禍1年目に審査にしたときとまた印象が異なりました。日常の賑わいが戻ってきた背景の中で練習を重ねてきた様子がうかがえます。
 活動的な中でも自身と楽器と音楽に向き合う心静かに
集中した時間と気持ちの落ち着きをいつも持っていたいものです。
 参加者の皆さんは、道の途中ではありますが、これからも視野を広げつつたゆまぬ努力を重ねていきましょう。

 

一般コース

【幼児の部】


 励賞について:ヘンデルは、音程も綺麗で曲想も素直な演奏でした。
ウェーバーの狩人の合唱は
、元気の良い演奏、妖精の踊り(出演番号3)は、音がしっかりしていて、出演番号5番では自然な流れでの演奏が印象的でした。努力賞の方もこれからもたくさん練習してまたのチャレンジを期待しています。

​【小学校1年生の部】

 金賞のザイツのコンチェルトでは、3重音の響かせ方が立派でした。銀賞の方は、自分の音楽でぐいぐい引っ張ってリードしていたのが印象的でした。奨励賞の方はまとめてフレーズをとらえている感があり、統制を取りながら今後他の曲でも良さを生かしていければと思います。努力賞の方も含め、今後もますます楽器に親しみ向上をしていきましょう。

【小学校2年生の部】
 

 1人を除きヴィヴァルディのコンチェルトイ短調の第1楽章を選曲していましたが、出だしのリズムが滑りやすいようです。金賞の方は颯爽とした演奏、銀賞の出演番号の6番の方は、調性によって音色、表情を変えていたのが好印象でした。出演番号1番の銀賞の方は、大変元気の良い演奏でした。奨励賞の方たちもこれからどんどん力をつけていきましょう。

【小学校3・4年生の部】


 金賞は逃しましたが、銀賞出演番号4番、右手のストロークにメリハリがあり、変化のある演奏。最後の和音の軋みが惜しかったです。銀賞6番も音程も曲想に沿いしっかりしているが重音のバリエーションからも余裕のある演奏をキープできればよかったです。

 銅賞の男子たちはそれぞれに良い面があるのでこれからも今の良さを保ちつつ音楽が大きくなっていくと良いです。奨励賞、努力賞の方たちもよく挑戦しました。たくさん練習して成長していってください。

小学校5・6年生の部


 金賞のクライスラーは、全体的に流れが良く、余裕のある演奏でした。銀賞では、骨格のある演奏でした。銅賞のベリオの演奏は自分の音楽を感じて演奏しているのが良かったです。ボーイング(姿勢)を直していけると良いでしょう。銅賞クライスラーでは、和音の弾き方を習得していくと全体のレベルがアップします。
 奨励賞ベリオは重音ばかりで大変な曲ですが、良くチャレンジしました。大変でも身体が柔軟に使えるようになるくらい練習と研究をしましょう。自分の音楽を持っているのでこれからもがんばってください。努力賞の方も一層練習に励まれてください。

【中学校の部】
 

 金賞のヴュータンは、惹きつけるオープニングでしたので、今後、構成力が出て変化に富み、叙情的なテーマの歌いまわしが曲に沿っていくと魅力が増すでしょう。銀賞ブルッフ1楽章では豊かな響きで自然に歌っていました。銀賞ブルッフの3楽章では、しっかり弾いているところもありますので、テーマのリズム、歌う箇所のテンポ感など統制が取れていくことを期待します。銅賞ブルッフ1楽章では、全体にテンションがかかっている傾向があるので抜くところもあると、バランスが取れ、魅力が増します。
 銅賞ブルッフ3楽章では、勢いは良いので、シフトの際のグリッサンドに気を付けて、細部まで気を配り、また、音がもっと鳴っていくと印象がアップします。

高校の部】


 金賞ドヴォルザークは、響きや持続性、自分の音楽がありました。音程が曲想に合うことが望まれます。銅賞ヴュータンでは、音がもっと充実するように練習を重ねていきましょう。
 銅賞パガニーニは響きが豊かで存在感があります。テクニックの面で向上すると俄然良くなるでしょう。

【大学・一般の部】

 大学・一般の部の参加者は1名で、その方は銀賞を受賞しました。予選のパガニーニでは確実かつ楽しませましたが、本選のチャイコフスキーでは、カデンツァで自分らしさを発揮できたようです。

学コン課題曲コース
【小学校の部】


 1位は流れも自然で全体的にバランスがよかったです。

 2位は音楽づくりがはっきりしていました。
 3位はしっかりとしていますが、音程がより合うと印象が良くなります。
 奨励賞は落ち着いて堂々と演奏しているのでフレーズをもう少し明確にしていきましょう。

【中学校の部】【高校の部】


 この中学校の部と高校の部が今回のハイライトと言って過言ではないでしょう。表現、テクニックも自主性があり、曲を楽しませるまでもっていきました。中学校の部では予選の時よりもはるかに上回るレベルの演奏でした。今後も期待しています。

 高校の部1位は美音かつ自分の音楽を奏で安定感もあり魅了しました。2位も美しい音でした。多少つたないところもありますが、間のとりかたが良かったです。

 さらに成長した皆さんの演奏を、また聴かせていただく機会を楽しみにしています。

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